Artisans & More

2025/04/15 19:10

便利さとスピードが主役の時代に、「手間をかけた一皿」に静かに光が戻ってきています。
そして今、その光の中にひときわ異彩を放つ存在があるとすれば——それはジビエのシャルキュトリー。

今回はArtisan NIPPONの新たな挑戦を入口に、ジビエという素材がなぜ“芸術”になりうるのかを考えてみます。
ジビエと聞くと、何やら物々しい。
命をいただく覚悟、自然との共存、そして猟銃の話まで飛び出してきそうだ。
確かにどれも大切だが、こちらとしてはただ静かに美味しいものを食べたいだけ、という日もある。
そこで現れるのが「シャルキュトリー」という魔法の言葉だ。
フランス語になると、猪肉も鹿肉も急にクラヴサンの音でも聞こえてきそうな気品をまとう。
ハムじゃない、パテでもない、「シャルキュトリー」。
言い方ひとつで、冷蔵庫の中がちょっとパリの風になるから不思議だ。

Artisan NIPPONが手がけるのは、そんな“言葉の魔法”に頼らずとも成立する本物の逸品たちだ。
猪肉や鹿肉と真摯に向き合い、熟成し、香辛料を重ね、静かに仕上げる。
派手な演出はない。ただ、噛み締めた瞬間に「あ、これはちゃんと手間がかかってるな」と、舌が正直にうなずく。
熟成には時間がかかる。素材の選別にも神経を使う。
おそらく、間違っても“秒で完成”するものではない。
シャルキュトリーの魅力は、「野性の素材が静けさをまとう」ところにある。
牙を剥くようなワイルドさではない。
むしろ、山の静寂と、技の蓄積が生む“研ぎ澄まされた余白”のような味わい。
派手さよりも、凛とした気配がある。
そして——
気の利いたソムリエが勧めてきそうなワインを片手に、それをひとくち。
うん、鹿の声が聞こえる……ような気がする。いや、たぶん気のせいだ。
こういうものを口にするたび、「食べる」という行為が、少しだけ“生きること”に近づく。
それは豪勢なディナーでなくてもいい。
例えば一人の夜に、猪のパテをひと切れ。
それだけで、不思議と“人としての姿勢”が整う気がしてくる。

Artisan NIPPONのジビエシャルキュトリーは、単なる加工肉ではない。
それは技術と哲学と、ちょっとした茶目っ気が詰まった、小さな作品たちだ。
冷蔵庫の中に、そっと詩人をひとり住まわせてみる。
そんな贅沢があっても、いいじゃないか。



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