2025/06/07 09:49
肉を噛む”という、静かな贅沢
「肉を食べたい」という欲求は、時に理性を超える。
ただしそれが“猪肉のステーキ風”となると、話は少し違ってくる。
獣の名を冠しているだけに、想像はどうしても野性へと傾く。
荒々しく、力強く、どこか物騒なイメージすらある。
だが一方で、皿に置かれたSteak hachéを前にすると、そうした先入観が静かに解体されていく。
Artisan岡田修氏が仕立てたこの一品は、「肉とは何か」を問いかけてくる。
ただのタンパク源ではなく、技と時間、そして風土の記憶が刻まれた素材。
その記憶の層を、一口ごとに解きほぐしていくような体験。


木更津の山が育てた、ひとつの答え
猪という生き物は、山の味を知っている。
木更津の山中、どんぐりを食べて育った個体の脂は、しつこさがなく、香りに澄んだ甘みがある。
このSteak hachéに使われるのは、そんな山の息吹をそのまま内包した天然猪肉。
捕獲から30分以内に処理され、熟成、整形、粗びきへ。
素材の鮮度を守ることは、野生の尊厳を損なわないための最低限の礼儀だ。
そしてその後、肉は静かに眠り、目覚めのときを待つ。
余計なことはしない。
ただ、きちんと待つ——それが、職人の流儀である。

ステーキでもハンバーグでもない、第三の愉楽
“粗びきステーキ風”という不思議な名称の中に、矛盾はない。
それはつまり、肉そのものの個性と、構築された美意識が同居しているということだ。
つなぎは卵のみ。調味も極めて控えめ。
塩とスパイスの配合は、もはや調律と呼びたい精密さ。
すべては「噛んだ瞬間」に向けて準備されている。

焼き上げれば、脂がゆるやかに溶けて、香りが立ちのぼる。
ひと噛みするごとに、肉の繊維が声を上げる。
技と時間を経た、凛としたうま味の旋律だ。
食卓に火を灯し、猪のSteak hachéを焼く。
その音と香りに包まれながら、「今日は丁寧に生きているな」と思える。
そんな食体験があっても、いいじゃないか。
Artisan NIPPONのこだわり
木更津の山で出会った命を、ただ“おいしい”で終わらせない。
その肉にふさわしいかたちを探し続ける職人・岡田修が、技と時間と対話を重ねて、ようやく差し出す一皿。
私たちArtisan NIPPONは、その皿に宿った風土と手仕事の温度を、言葉とともにお届けします。
ここにあるのは、ただの食材の話ではなく、生きものと人が静かに向き合うための物語です。