Artisans & More

2025/06/14 10:00

「その脂に、季節が宿る。」

猪のベーコン、と聞いて、どんな味を想像するだろう。
がっしりとした肉塊、荒々しい獣の香り。あるいは、どこか土臭さの残る素朴な保存食——。
だが、Artisan岡田修が手がけるこのベーコンは、そのどれとも違う。
ひと口で思う。「これは、もはや調味ではない」。
煙、塩、時間、そして脂。そのすべてが、山の短い季節だけが許した“成熟”という名の旨みを纏っている。

脂が甘い。なのに重くない。
赤身と脂がぴたりと並ぶ断面は、まるで山の地層のように整っている。
人の手が自然に敬意を払い、そこにそっと技を添える。
そんな、静かなる職人仕事の極みがここにある。

たった20頭しか選ばれない、その理由

この猪ベーコンが「特別」と言われるのは、流通量が少ないからではない。
その原材料に、季節と条件に選ばれた“完璧な個体”だけが使われているからだ。
必要なのは、50kgを超える成熟した猪。
厚いバラ肉、引き締まった赤身、香り豊かな脂。
それらが揃うのは、一年のうちでもごく限られた短い期間にしかない。
しかも、捕獲時に損傷がなく、肉質に影響を与えないこと——この条件を満たす猪は、年間わずか20頭弱。
鮭で言えば銀聖、牛で言えば神戸ビーフ。
山の恵みと偶然が重なった“ほんの数頭”だけが、この一品の原料となる。

燻製とは、記憶を封じ込める技法である

猪肉のベーコンを美味しく仕上げるのに、奇をてらう必要はない。
塩、砂糖、香辛料、そして丁寧な燻煙。
だが、この“シンプルな構成”の中にこそ、技の真価が潜んでいる。
じっくりと寝かせ、旨みを引き出し、
煙で包み込むことで、その脂の甘みが一段と際立つ。
焼いた瞬間に立ちのぼる香りは、どこか懐かしく、それでいて品がある。
それは、「保存食」ではなく「作品」として仕上げられたベーコンにだけ許される香りだ。
つまりこれは——野性が静けさを身にまとった瞬間、である。

“脂に生き様が宿る”ということ

このベーコンを前にしたとき、
あらためて「食べる」という行為の重みを思い出す。
命の背景、自然との距離、そして火を入れる手の感覚。
そんなものと向き合う時間が、なぜだか心地よい。
単なる保存食ではなく、風土と哲学をまとう地方食材の最高峰かもしれない。
無添加加工肉が増える昨今においても、この一品はまるで異なる文脈で語られる。
これは、地方の山が贈る“脂の芸術”。
そう呼びたくなるような、ひと切れ。


Artisan NIPPONのこだわり

木更津の山で出会った命を、ただ“おいしい”で終わらせない。
その肉にふさわしいかたちを探し続ける職人・岡田修が、技と時間と対話を重ねて、ようやく差し出す一皿。
私たちArtisan NIPPONは、その皿に宿った風土と手仕事の温度を、言葉とともにお届けします。
ここにあるのは、ただの食材の話ではなく、生きものと人が静かに向き合うための物語です。

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