2025/07/02 10:00
「野性は、なめらかに変換されることもある。」
猪肉と聞いて、想像するのは、粗野な山の力かもしれない。
しかしこのテリーヌは、その先入観を裏切る。
一見、上品な前菜。けれど中には、風土と生命の輪郭がしっかりと息づいている。
塩とハーブ、香味野菜の調和。
そこに洋酒の薫りがふわりと立ち上がり、舌に届く前から味の構築が始まっている。
食べれば分かる。
このなめらかさの中には、“野性を沈める技”があることを。
「テリーヌという様式、猪という素材」
テリーヌはフランス料理の伝統技法だが、
ここではその枠を超え、“山の素材を静かに表現する容れ物”になっている。
使われているのは千葉県・木更津の天然猪。
その肉を丁寧に下処理し、不要な獣香を取り除きながら、旨みと脂のバランスを見極めて整える。
そして、ハーブと香辛料が静かに輪郭を添え、
洋酒の芳醇さが最後に全体をひとつにまとめ上げる。
派手ではない。
けれど、沈黙の中に構成された“味の建築物”のような、重厚さがある。

「赤ワインと並べたとき、はじめて完成する料理」
この猪のテリーヌは、冷蔵庫から出した瞬間にはまだ目を覚ましていない。
常温に近づくにつれ、香りがほぐれ、脂がほどけて、ようやく語りはじめる。
そこに、赤ワインやクラフトビールを一杯添えれば、場に“余白”が生まれる。
口に入れたとき、まず広がるのは塩とハーブの精緻なバランス。
その奥からじわじわと立ち上がる、猪肉特有の深いコク。
これは、“食べる”というより“調和を聞く”ような行為だ。
大地、技、時間、酒。
テーブルの上に、それらが等しく並ぶことの意味を思い出させてくれる。

「一皿の中の、自然と文化の交差点」
この猪肉のテリーヌは、ジビエでありながら獣臭さを持たない。
無添加に近いシンプルな製法。けれど決して素朴ではない。
むしろ、*“文化に昇華された野性”と言うべきだろう。
地方食材のおすすめを探すなら、
あるいは無添加加工肉を贈りたいなら——
このテリーヌは、“ただの美味しさ”以上の体験をくれる。
なぜなら、そこには土地の記憶と、職人の構成力が閉じ込められているからだ。
詩のように。建築のように。そして、静かな音楽のように。
Artisan NIPPONのこだわり
木更津の山で出会った命を、ただ“おいしい”で終わらせない。
その肉にふさわしいかたちを探し続ける職人・岡田修が、技と時間と対話を重ねて、ようやく差し出す一皿。
私たちArtisan NIPPONは、その皿に宿った風土と手仕事の温度を、言葉とともにお届けします。
ここにあるのは、ただの食材の話ではなく、生きものと人が静かに向き合うための物語です。