2025/06/28 10:00
火を入れる前から、美しい——鹿スネ肉という静物
冷凍庫の中に、美術館があった。
そう思わせるほどに、この鹿スネ肉は整っている。
透明なパッケージの向こうに見えるのは、
しっとりと濃い赤身、透きとおる筋の光沢、
その上にあしらわれたローズマリーとにんにくのスライス。

——まるで絵画の構図だ。
この肉は「仕上げを待つ食材」でありながら、すでに一つの完成された“形”をもっている。
見るからに、余計な脂はない。けれど、生命の輪郭だけはくっきりと残している。
それは、熟練の手が「煮込む前」に行った、**“静かな編集”**の痕跡でもある。
火の前の美しさが、皿の行方を決める
圧力調理で、時間と熱の均衡が取られた鹿スネ肉。
筋を外し、旨味は閉じ込め、ゼラチン質を逃がさない。
それでも、料理人の自由を奪わないように、
味付けはにんにくとローズマリー、そして塩だけにとどめてある。
「おいしさ」よりも先に、「うつくしさ」がある。
そんな食材は、そう多くはない。
この鹿スネ肉は、ただ仕上げられたのではない。
“魅せられるように設計された”、プロのための赤身だ。
パスタソースにしてもよし、赤ワインで煮てもいい。
でも、まずはトングで手に取ってほしい。
冷凍庫から取り出した瞬間、その佇まいに、
きっと誰もが一度、息をのむ。
Artisan NIPPONのこだわり
野性を美しくするには、暴れさせてはいけない。
火に委ねる静けさ、仕込みに込めた緻密さ——
それらが合わさったとき、食材は“語る”ようになる。
鹿スネ肉という脇役を、ここまで美しく整えるのは、
Artisan岡田修の手にしかできない仕事かもしれない。
これはただのジビエではない。
視覚から始まる、火と余白の物語である。