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2025/11/02 10:26

──ジビエは「獲る」のも「食べる」のも、むずかしい話だ。

最近、友人がジビエソーセージをお取り寄せした。
「鹿って意外とあっさりしてるんだね」と言いながら、ワインと一緒に嬉しそうに頬張っていた。
その顔を見て、なんだかうれしくなった。
でも一方で、ちょっとだけモヤッとしたのも事実だ。

ジビエは、そんなに“うまい話”じゃない。
たしかに鹿肉ソーセージはおいしいし、栄養価も高いし、無添加だったりすれば安心もできる。

でもそれは、「誰か」が山に入り、罠を仕掛け、命と向き合い、処理し、運び、レシピに仕立てた後の話だ。
つまりは、人知れずものすごく“めんどくさい工程”の上に乗っかって、ようやく“うまい”が成り立っている。

捕っても、捕っても、減らない鹿。

たとえば鹿。
かつては北海道を除く全国で28万頭だったと推定されるシカの個体数は、令和4年度には約246万頭(中央値)まで増えたという(出典:「全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等の結果について」環境省)。実に9倍近い増加である。
これに対して、捕獲数も右肩上がりで頑張っている。令和5年度の捕獲数は過去最多の72万頭(うち59万頭が許可捕獲)にのぼった(出典:「ニホンジカ・イノシシ捕獲頭数速報値(令和5年度)」環境省)。
けれど、個体数はほとんど減っていない。
まるで、穴の空いたバケツに水を汲み続けているような感覚だ。

獲ることの難しさは、想像以上に“人間的”だ。
そもそも、山に入って獲物を仕留めるには、銃の免許がいる。
講習を受け、筆記と実技をクリアし、定期的な更新も必要だ。
そのうえで、自治体の許可を得て、適切なタイミングと場所で猟をしなければならない。
しかも、獲れたからってすぐ食卓に並べられるわけじゃない。

血抜き、内臓処理、熟成、衛生管理、冷凍保存——
すべてに専門技術と設備が必要だ。

それなのに、猟師の大半は70代であるというのが、いまの日本のリアル。
ジビエの“入り口”である「獲る人」が減っている。
食べることの難しさは、「日常」にならないことだ。
たとえ優れた鹿肉やイノシシ肉が手に入ったとしても、それを料理するのはハードルが高い。
独特の香り、赤身の扱い、火の通し方。
「野生肉は硬い」と思われがちだけれど、それは肉が硬いのではなく、“食べ方の経験値”が足りないだけかもしれない。
だからこそ、鹿野菜ソーセージのような“下ごしらえされたジビエ”はとても貴重だ。
あの一口が、「山」と「台所」をつないでくれる。

手間をかけてでも食べたい理由が、そこにある。
山の恵みをいただくというのは、簡単に“おいしい”で片づけられる話じゃない。
むしろ、むずかしいからこそ、じんわりと沁みるうまさがある。
それは命に対する誠実さかもしれないし、土地との距離感かもしれない。

たとえば、誰かが仕留め、捌き、焼いたそのソーセージを口にしたとき。
「ああ、これは山の中で、ひとつの命だったのか」と、ふと考える瞬間がある。

それこそが、ジビエという食べものの、最大の滋味なのだと思う。

獲るのも、食べるのも、めんどうだ。
でもそのめんどうを引き受けた先にだけ、“うまい”がある。

だから私は今日も、ちょっとした覚悟をもって、ジビエを焼く。

📎 出典:
・環境省「全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等の結果について」令和5年資料
・環境省「ニホンジカ・イノシシ捕獲頭数速報値(令和5年度)」

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