2026/02/28 00:00
「おもろい肉」を探しに、
わたしは今日も山に心だけ置いてくる
スーパーの精肉コーナーって、
たまに不思議な気持ちになりませんか。
豚肉も、牛肉も、きれいに整列していて、ラップの上からでも
「ちゃんとしてる」のが伝わってくる。
それはそれで、頼もしい。
疲れた平日の味方だし、人生みたいに安定している。
……いや、人生は安定しないか。
でも少なくとも、肉は安定している。
最近、わたしはあまりにも整っている肉を見ていると、
少しだけ、物足りなくなる。
銘柄豚だって、ブランド牛だって、もちろん違いはある。
あるんだけど——
「結局、スーパーで買える畜肉って、だいぶ“均一”じゃない?」
という気持ちが、頭の片隅に残ってしまう。
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均一であることは、悪口じゃない。
むしろ、人類の努力の結晶だと思う。
いつ買っても、だいたい同じおいしさ。だいたい同じ安心。
でも、ジビエはちがう。均一の、真逆に立っている。
均一じゃないものって、手に取るときに、少し勇気がいる。
けれど、その勇気のぶんだけ、心が動く。
そして、心が動いた分だけ、「食べた」が「体験」になる。
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——ジビエとは何なのか?
そう聞かれたら、わたしはたぶん、こう答える。
「振れ幅」
ジビエ(野生肉)は、とにかく個体差が大きい。
脂の乗り方も、香りも、繊維の感じも、同じ「鹿肉」なのに、まるで別人格みたいに違う。
例えるなら、同じ苗字の親戚なのに、全員クセが強い家系。
で、その振れ幅の中に、ときどき混ざっている。
「え、なにこれ……」
という、ぶっ飛んだ当たり。
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魚って、基本ぜんぶおいしいじゃないですか。
でも、たまにある。
“神回”みたいな一尾。
塩焼きなのに、口の中で潮が踊るやつ。
刺身なのに、時間が止まるやつ。
ジビエも、それに似ている。
いつも美味しい。
その上で、たまに人生を揺らす個体がいる。
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ちょっとだけ、わたしの価値観をひっくり返した話をしたい。
わたしが食べたのは、鹿肉の、ほぼ素揚げに近いカツだった。
見た目は、普通。
ソースも横に置いてあって、「お好みでどうぞ」って顔をしていた。
でも、最後までソースをつけることがなかった。
むしろ、つけたくなくなるほど「鹿の味」がした。
よく言う「獣感」とか「ジビエ特有のクセ」とか、そういうものじゃない。
まぎれもなく、鹿が持っている肉としての美味しさだった。
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食感も、初めての感覚だった。
噛んだ瞬間、ギュギュギュッ、と肉の存在感が立ち上がって、そのあと、ふわふわ。
「鹿肉に、ふわふわって言う?」
と自分でツッコミながら、でも本当に、柔らかいを超えたふわふわだった。
不思議だった。
鹿肉の概念が、大幅に更新された瞬間だった。
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「そんなの食べたら、次がつらくない?」
これ、よく聞かれる。
わたしも、思った。
「最高の鹿に出会ったら、次から不幸になるのでは?」
でも、ならない。ならないんです。
なぜなら、ジビエは“比較の世界”じゃなくて、“遭遇の世界”だから。
今日の鹿は、今日の鹿。
明日の鹿は、明日の鹿。
同じ鹿肉でも、同じテンションで来ない。
そこが、むしろいい。
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安定した恋愛も、もちろんいい。
でも、たまに“おもしろい人”に出会うと、人生が、ちょっとだけ立体的になる。
ジビエって、そういう肉だと思っている。
わたしが思う、ジビエにハマる言葉は、結局これだった。
「おもろい肉」
おいしいだけじゃなくて、予想を裏切ってきたり、香りで話しかけてきたり、噛むたびに表情が変わったりする。
ジビエは、食卓にちょっとした“事件”を持ち込む。
それが、わたしにはたまらない。
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もちろん、家で食べるとなると「当たり外れが怖い」という人もいると思う。
だからこそ、処理や加工の哲学が大事になる。
無添加の加工肉で、素材の声を消さないつくり方。
脂や香りを“ごまかさずに整える”
職人の仕事。
ジビエソーセージみたいに、野生肉の味を日常に翻訳してくれるアイテム。
そういうプロダクトは、振れ幅を“怖さ”じゃなく“面白さ”に変えてくれる。
それは、単に便利な買い方じゃなくて、山の偶然を家のテーブルに招待する方法なんだと思う。
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猪肉だって、同じだ。
ぼたん鍋の、あの脂の甘さ。
説明すると野暮なのに、説明したくなる甘さ。
「地方食材のおすすめは?」
と聞かれたら、わたしはわりと本気で、ジビエを推す。
食べものなのに、話が増えるから。
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ジビエは、SDGsとか、大義名分だけじゃない。
もちろん、それも大切。でも、わたしはおもしろいから食べている。
人生が、たまに退屈になるように、肉も、たまに退屈になる。
そんなとき、ジビエはちゃんとズラしてくる。
遠慮なく、ズラしてくる。
……困るんだけど、
好き。
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最後に、ひとことだけ。
ジビエって、“特別な料理”の顔をしてるけど、ほんとは逆で、日常のほうをちょっとだけ特別にする肉だと思う。
次にスーパーで、整列した豚肉を見て少し寂しくなったら。
その夜は、山の振れ幅をひとつ、家に連れて帰ってみてください。
おもろいですよ。
ほんとに。
